Yggdrasill WorkS

神代樹、音無涼風による総合創作サークル「Yggdrasill WorkS」のサイトです

 その部屋は《最奥》と呼ばれていた。
 全十七階層に及ぶ大深度地下エリア。その最下層の更に奥にその部屋はあった。
 大人が四、五人もいたら窮屈になりそうなその《最奥》には、一人の女性だけが居た。
 もし触れようとすればその指さえもがすり抜けてしまいそうな、透明な白い肌。
 太陽の光をそのまま束ねてそこに置いたような、輝く金の髪。
 生命の宿らぬ人形のようでいて、しかし生気に満ち溢れた銀の瞳。
 それらの身体的特徴は、すなわち彼女が属する種族を示している。
 ――エルフ――――
 彼女達はそう呼ばれていた。
 神々の直系の子孫とも言われる、大きな魔力を持つ種族である。
 エルフの女性は、《最奥》の中央――といってもこの小さな部屋ではほぼ床全面だが――に描かれた魔方陣の中心に立ち、一心に何かを呟いていた。

「エト・レグノ・オス……
 ゲイムル・ネ・ヌウト・エブ・ブレウン・ヘルア・オル・ヴィルト……」

 それは、この世界で現在使われている言葉ではなかった。
 希望の祈りか、絶望の呪詛か。
 真上を――十七階層を隔てた更に向こうにある空を見上げるようにして、彼女はただひたすらにその言葉を繰り返していた。
 放たれた言葉達は魔力とともに《最奥》を満たしていく。

 もう何時間それを続けていただろうか――
 気力がもたなくなってきたのか、糸が切れた人形のようにその場にくずおれる。
 魔力を激しく消耗し、焦点の定まらない虚ろな瞳のままで、それでも彼女は言葉を紡いだ。

「どうか間に合って……運命の子達……」